びおの珠玉記事
第50回
柏餅あれこれ
※リニューアルする前の住まいマガジンびおから珠玉記事を再掲載しました。
(2010年05月05日の過去記事より再掲載)
5月5日は端午の節供。
端午の節供にお供えし、食べるものといえば、柏餅と粽ですね。
そのうち、今回は柏餅に注目してみました。
緑色の柏の葉に包まれた白いふっくらしたお餅、中にはあんこ。
葉をはがしてお餅を口に運ぶと、柏の葉独特の薫りが漂います。
この薫りと味わいで、端午の節供を、そして新緑の季節がやってきたことを感じます。
柏餅を食べるようになったのはいつ頃から?
端午の節供にお供えして食べる粽と柏餅ですが、粽は中国から伝わったもので、柏餅は日本独自のものです。
柏餅が端午の節供に食べられるようになったのは、江戸時代の中期頃とされています。
柏の木は新しい芽が出るまで古い葉が落ちないことから、「子どもが生まれるまで親が死なない=跡継ぎ、家系が絶えないように」という願いを込めて、柏の葉でお餅を包んで食べるようになりました。
江戸時代初期には粽が食されており、『日本歳時記』(1687年)には端午の節供に飲食するものとして菖蒲酒と粽が挙げられていて、柏餅の記載はないそうです。
江戸時代中期頃から柏餅も食されるようになり、宝暦(1751~1764年)の頃には端午の節供に菓子屋で柏餅を売り始め、江戸時代後期には、江戸では主に柏餅、京坂(京都、大坂)では主に粽、という風習が定着したようです。
そして柏餅は、年中行事に用いられる代表的な和菓子になりました。
現在でも、西日本では粽、東日本では柏餅を主に食べることが多いとされますが、みなさんのお住まいの地域ではいかがでしょうか?
柏の葉で包むのは?
さて、柏餅には上述のような由来があるのですが、さらに時代を遡ってみます。
植物の葉が食器として使われていた名残
葉で包むのは、昔、植物の葉を食器として使っていた名残だとされています。
昔、食べ物を盛る器としていろいろな植物の葉が用いられ、それを総称して「炊葉」と呼んでいました。
その中でも、柏の葉はある程度の大きさがあり、丈夫でしなやかなため、よく使われました。食器代わりに、また食べ物を包んで蒸したり、蒸すときに蒸籠に敷いたりしました。手に入れやすい身近な台所道具だったようです。
そのため「炊葉」の名がそのまま使われ、それが転じて「かしわ」になったのではないかと言われています。
また、このことから、古代、宮中で食膳の調理をつかさどった人々のことを「かしわで」(膳・膳夫)と呼ぶようになったとされています。(「で」は、それをする人の意)
柏の木(後述)から、標準的な大きさの柏の葉を1枚取ってきて、皿にのせてみました。(皿は、冒頭の写真で柏餅をのせている皿です。)
柏の葉は、つやつやしていてみずみずしく、表面は細かい毛で覆われています。
確かに、適度な強度があってしなやかで、大きさも食器にするのに適していそうです。
柏は神聖な木
柏は古来、神聖な木とされました。
樹木を守る葉守の神も、この木に宿るといわれました。
前述のように、柏の木は新しい芽が出るまで古い葉が落ちず、冬になって葉が茶色に変わってしまっても、落ちずにいます。この様子から、昔の人々は柏の木のことをこのように考えたのかもしれません。
この言い伝えから、皇居警備の任に当たる兵衛・衛門のことを「柏木」とも呼びました。
そして、このようなことから、柏餅は男子の節供にふさわしいものとされたのだろう、ともいわれています。
保存の目的を兼ねて
草や樹木は、微生物の活動を抑制する作用を持つ「フィトンチッド」という成分を作って発散しています。
これは草や樹木が発する芳香であり、森林浴の効果はこれによってもたらされるとされています。
柏餅も、このフィトンチッドの力を取り入れているといえます。柏の葉で包むことによって、保存性が高まるのですね。
他にも、粽や桜餅、柿の葉寿司、おにぎりを包んだ木の皮、刺身に添えられた大葉やわさび…等々も同様です。
昔の人々は、経験的にこのような効果を知っていたのではないでしょうか。
▼森林・林業学習館 より フィトンチッドのさまざまな効果
http://www.shinrin-ringyou.com/mokuzai_jyu/phyton.php
いろいろな柏餅
お餅とあん
さて、柏餅のお餅は白いものが定番ですが、よもぎを入れた草餅や、最近では淡い紅色をつけたものなどもあるようですね。
「びお」編集部のある静岡県浜松市では、「お茶の葉入り」というものも見かけました。
また、柏餅のあんには、小豆あん(粒あん、こしあん)と味噌あんがあります。
昔、砂糖が貴重品だった頃は、白味噌を代わりに使っていました。
味噌あんは、この名残だといわれています。
正月のお菓子、菱葩餅にも味噌あんが使われています。
昔は、中身が小豆あんの場合は柏の葉の裏を見せて包み、味噌あんの場合は葉の表を見せて包むのが決まりだったそうです。
葉の包み方で、あんの種類を見分けられたわけですね。
今でも、このような区別をしているところもあるかもしれません。
サルトリイバラの葉
西日本では、柏餅を柏の葉ではなく、サルトリイバラ(猿捕り茨)(またはサンキライ、山帰来)の葉で包む地域もあります。
そして、それを「柏餅」と呼びます。また、地域によって「イバラ餅」など、別の呼び方もあるようです。
▼さぬき日記 より 香川県の柏餅
http://tharuno.exblog.jp/5306563/
大柏餅
「びお」編集部のある静岡県浜松市には、「大柏餅」というものがあります。
昔から、男の子が生まれて鯉のぼりや五月人形をお祝いにいただくと、お返しにはよく柏餅が使われましたが、浜松では普通の柏餅の何倍もの大きさのものを使い、「大柏餅」と呼ばれました。
しかし最近では、大柏餅の注文はかなり減ってしまっているそうです。
みなさんのお住まいの地域の柏餅についても、ぜひ教えてください。
柏の葉、その生長ぶり
4月のはじめ、柏の木がふと目につきました。
ちょうど、新しい芽が芽吹いているところでした。
よく見てみると、その生長の様子がとてもおもしろくて、引き込まれました。
以下、同じ時に撮った写真です。
1本の木の中に、新芽の生長のいろいろな過程が見られます。
以上が、4月はじめ(4月3日)の様子です。
それから1か月弱、27日後(4月29日)にこの柏の木がどうなっていたかといいますと…。
…こんなふうになっていました!
以上が、4月おわり(4月29日)の様子です。
1か月弱(27日間)という短い間のこの生長ぶりに、目を奪われました。
びっくりです!
端午の節供に柏の葉で包んだ柏餅を食べるようになったのには上述のような由来があるのですが、短い間にこれだけの生長を見せてくれる、柏の木の豊かな生命力に、古の人々は心を動かされたのではないか、それも柏餅を食べるようになった理由の1つなのではないかなあ…などと、思いを巡らせました。
柏餅、柏の葉のあれこれに思いを馳せながら、今年もおいしい柏餅を楽しんでください!
日本の「食」とくらし2季節ごとに体験しよう ―おせち、かしわもち、おはぎ ―
(竹内由紀子 監修、学習研究社、2003年)
日本大歳時記(座右版)(水原秋櫻子ほか 監修、講談社 編、講談社、1983年)
写真
菱葩餅写真
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:%E8%8A%B1%E3%81%B3%E3%82%89%E9%A4%85.JPG
サルトリイバラ(猿捕り茨)
写真撮影:青木繁伸(群馬県前橋市)
http://aoki2.si.gunma-u.ac.jp/BotanicalGarden/HTMLs/sarutoriibara.html
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びお特集 端午の節供は誰のもの?
https://bionet.jp/2019/05/03/tangonosekku/